街路樹の下で広げた、雨音を弾く盾

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2003年の冬、シドニーの街は時折、逃げ場のないような執拗な雨に見舞われることがあった。その日、私はシェアハウスへの引っ越しのために、全財産を詰め込んだバックパックを背負ってマリックビルの駅に降り立った。空は低く垂れ込め、街全体が鈍色に沈んでいる。傘を差す余裕などなかった。両手には自炊道具が入った重いスーパーの袋があり、背中には15キロを超える荷物がのしかかっていたからだ。

駅から目的地までは歩いて15分ほど。バスを待つ時間も惜しく、私は雨の中を歩き出すことにした。最初は霧雨のようだった雨脚は、歩き始めて数分で容赦のない本降りに変わった。建物の軒下で雨宿りをしようにも、大きなバックパックが邪魔をして、狭いひさしの中には収まりきらない。歩道に溜まった水が靴に染み込み、背中のキャンバス地が少しずつ雨を吸って重くなっていくのがわかった。

このままでは、中に詰めた予備の衣類も、日本から持ってきた日記帳も、すべてが台無しになる。バックパックの生地は厚いが、防水ではない。ジッパーの隙間から水が侵入し始めれば、取り返しのつかないことになるのは目に見えていた。私は一度、街路樹の陰で荷物を下ろし、サイドポケットに押し込んでいたナイロン製の薄いカバーを引き出した。

それは掌に収まるほど小さく畳まれていたが、広げるとバックパック全体を覆い隠すほどの大きさになった。縁に仕込まれたゴムを引っ掛け、荷物の形に合わせて被せていく。雨粒がその表面に当たっては、弾かれ、地面へと滑り落ちていった。

再び歩き出したとき、背中の重みは変わらなかったが、不快な「湿り気」の増幅は止まった。冷たい雨が降り続く中、歩道に叩きつけられる水音だけが響く。すれ違う車が上げる水しぶきを浴びても、背中の荷物だけは別の空間に守られているような、妙な安心感があった。

目的地に着き、湿った玄関先でその覆いを外したとき、内側のバックパックは驚くほど乾いたままだった。周囲のナイロン地はびしょ濡れで、雫が滴っていたが、本体のジッパー周りには一滴の水も染みていない。

もし、あの雨の中でそれを被せていなかったら、その後の数日間、私は湿った衣類と、ふやけた日記帳を前に途方に暮れていたはずだ。タオルで表面の水を拭き取り、再び小さく丸めてポケットに押し込む。次にいつ来るかわからない雨に備えておくことだけが、当時の私にできる数少ない防衛手段だった。

旅の舞台裏

当時はここまで気が回りませんでしたが、今思うとあったら良かったなと思えるものの一つが、レインカバーです。保険として。

都市に滞在している時には基本不要なのですが、旅をしているとどうしても天候に恵まれない日が出てきます。
時間に余裕があれば、天気の良い日に出発することもできるでしょう。もしくは雨が落ち着くまで雨宿りをすることもできるかもしれません。

ただどうしても避けられない状況になることもゼロではないので、やむを得ない場合に使えるアイテムとして、小さく収納できる一時しのぎ用として、バックパックに忍ばせておくと助かります。

当時は代替手段として、バックパックに収納する荷物はゴミ袋とか、ビニール袋に入れて防水処置を施し、それをバックパックに収納していました。衣類もですが、調味料など、雨に濡れてしまうと使えなくなってしまうものも持ち歩いていたので。
ただこの手段はあくまで代替手段で、中身は助かるのですが、バックパックはどうしても濡れてしまいます。

後日談として、バックパックは内側に防水機能としてフィルムみたいなもので覆われていましたが、このフィルムが劣化してボロボロと剥がれ落ち、短期間で使えなくなってしまいました。
水に濡れたまま放置してしまうと、加水分解を起こし、劣化を早めることになります。

レインカバーがない場合は、雨に濡らした後の、バックパックのお手入れにお気を付けください。

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