オーストラリアの長距離バス、グレイハウンドの車内はいつも冷房が効きすぎていた。窓の外には赤茶けた大地と、時折現れる名もなき低木が流れていく。
シドニーからケアンズへ、2ヶ月をかけた何百キロという移動の中で、私の荷物は常に二つに分かれていた。バスの荷物室に預ける大きなバックパックと、座席に持ち込む小さなサブバッグ。けれど、それらよりもさらに肌に近い場所に、もう一つの居場所があった。
宿に着けば、そこは安価なドミトリーだ。二段ベッドが並び、見知らぬ旅人が数人、同じ屋根の下で眠る。シャワーを浴びるとき、近くのスーパーまで外出するとき、あるいは街歩きで人混みに紛れるとき。
パスポートと数枚の紙幣、予備のクレジットカードをどこに置くかは、常に小さな課題だった。誰かを疑って過ごすのは疲れるが、自分の身を守れるのは自分だけだという事実は、異国の地で静かに、けれど確かに、背中に張り付いている。
肌身離さず身につけるセキュリティポーチを腰に巻き、シャツの裾を被せる。鏡を見ても、そこに貴重品が隠されているとは分からない。バスの座席で微睡んでいるとき、ふと手が腹部に触れる。そこにある確かな厚みが、言葉にできない不安を、静かに相殺してくれた。
滞在先で知り合った旅人たちが、盗難の話をすることがあった。カメラを失くした、財布を抜き取られた。そんな話を聞くたび、私はシャツの下にある感触を確かめる。それは機能というより、お守りに近い存在だったのかもしれない。派手な装飾もなく、使い込むほどに汗を吸って馴染んでいったそのポーチは、旅の終わりまで私の肌の一部であり続けた。
結局、一度も怖い思いをすることはなかった。何かを失いそうになる瞬間も訪れなかった。それでも、セキュリティポーチが精神的な防波堤になっていたのは間違いない。あってよかったと思う。なかったら、もう少しだけ、夜の眠りが浅かったかもしれない。
旅の舞台裏
ワーホリに旅立つまで私は海外渡航の経験がありませんでした。
初めての海外、それも約1年という長期間、渡豪の前の準備において、懸念を抱いていたことの一つがお金の持って行き方でした。日本で予め銀行口座を作って送金するという知識はありません。クレジットカードで決済するということも、今ほど主流でなかったし、年齢的にもあまり経験がありませんでした。
全財産を持って行くわけにもいかず、ましてやある程度まとまった現金を持って行った場合に、無くしたり盗られたりするリスクも文字情報として見ていたので、一部の現金を靴下に隠したりしていました。まとまったお金は当時紹介されていた、トラベラーズチェックにして持って行くという選択を取りました。
そのトラベラーズチェックとパスポートをまとめて入れて、お腹に巻いていたのが、セキュリティポーチです。現地で銀行口座を開き、まとまったお金を預けられるようになってからは、登場機会は減るのですが、それでもラウンド中など、すぐにお金をおろせない状況では定期的に登場していました。
当時は経験もなく、両替手数料について深く考えていませんでした。現役の方の情報を見ていると、最近では両替手数料が抑えられるWizeカードなどを使っている方も多いようですね。

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