砂に消える言葉

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アウトバックの赤い大地を、その日も数百キロ走った。地平線以外に遮るもののない、ひどく単調で、けれど圧倒的な力に満ちた風景。エンジンの振動が体に残り、耳の奥ではまだ風の音が鳴り止まない。ようやく辿り着いたキャラバンパークの片隅に、自分のための小さなナイロンの城を築く。陽はすでに落ち、周囲のキャンピングカーから漏れる微かな笑い声も、夜の冷気の中に溶けて消えていった。

テントのジッパーを閉じれば、そこは完全な孤独だ。昼間の乾燥した熱気とは対照的な、刺すような夜の冷え込みが肌を刺す。私は寝袋の上に胡坐をかき、膝の上に開いたノートを見つめていた。今日見た景色のこと、すれ違った旅人の視線のこと、自分の中に澱のように溜まった言葉たち。それを書き留めなければ、この旅の輪郭が闇に溶けて失われてしまうような気がしていた。

外の焚き火は、もう爆ぜる音も小さくなり、赤い熾火がわずかな熱を放つだけだ。テントの中までその光が届くことはない。ランタンも持ち合わせていない私の手元には、ノートの白さすら判別できない深い闇が降りてくる。誰にも邪魔されないこの思索の時間に、私は自分の指先すら見失いそうになっていた。

そんな孤独な手記の時間を、静かに支えてくれる道具があった。
それは、額に灯す電球式のヘッドライト だった。

スイッチを入れれば、私の視線の先だけが、温かみのあるオレンジ色の光に縁取られる。今のLEDのような鋭さはないが、フィラメントが震えながら生み出すその光は、どこか生き物の体温に近い。両手は自由になり、ペンを握り、ページをめくる動作に一切の淀みはなくなる。テントを揺らす風の音を聞きながら、私はただ、光の中に浮かび上がる文字を追った。光の輪の外側には無限の闇が広がっているが、この小さな円の中だけは、私が私であることを確認できる唯一の場所だった。

深夜、冷えた体を温めるために再び外の焚き火を熾そうとテントを出る際も、額の光は私の歩みを導いた。電池の消耗を気にしながらも、片手を塞ぐことなく手探りで乾いた小枝を集め、闇を乱さず最小限の動作で火を育てる。衝撃で電球が切れないよう、慎重に頭を動かすその不自由ささえ、誰とも話さない旅を続ける私の、静かな儀式のようでもあった。

翌朝、夜明けの冷気の中でテントを畳むとき、冷たくなったライトをポケットに滑り込ませる。それがなければ、私の旅の記録はもっと断片的で、闇に呑み込まれたままの言葉がもっと多かったはずだ。なくても死にはしない。けれど、あの孤独な夜の対話を完成させるためには、どうしても必要な、小さくとも確かな光だった。

旅の舞台裏

ワーホリ生活の中でも、ヘッドライトが重宝するのは、主にラウンド中かなと思います。

ホームステイやファームステイ、シェアハウスなどもそうですが、基本的に一人の空間が確保されている場合は不要です。テントの中もですが、バッパーでの生活など、ドミトリーで泊まる時は周りの人への配慮などを考えるとあるといいですね。

今の時代はLEDライトが安価に発達しているので、ライトと言えばLEDと思いますが、当時はまだLEDという言葉は一般的ではなく、電球だったように思います。

ここではヘッドライトとしていますが、実際は小さなキーホルダー式の、捻じってON/OFFをする、どこかでもらったか、土産屋で買ったのか、人差し指サイズのライトを使っていました。
今思えば毎回手間だったので、両手が自由になるヘッドライトが良かったなと思います。

今はスマホでも代用できるので、絶対必要な感じはないですね。

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